肩が上がらないという症状の、壮年期の病気として有名な五十肩/四十肩。
きちんと治療すれば治る病気ですので、ご安心を!
40代〜50代でよく起きる、肩の痛みと運動障害の総称。昔は四十肩というのが一般的でしたが、近年は五十肩と呼ばれることの方が多くなっています。肩こりがひどいと受診したら五十肩だったという方が多く、混同しやすいのですが、肩こりとは全く違う病態です。
肩関節周辺のさまざまな組織が損傷を起こし、肩から腕にかけて強い痛みが発生します。痛みの出方は、突然の激痛だったり、徐々に痛くなったりとさまざまです。
もっとも特徴的なのは「腕が直角以上に上げられなくなる」という症状。また、夜中になると痛くなることが多いようです。また、左右どちらか一方の肩に起こります。一方の肩が五十肩になると、しばらくしてからもう一方の肩も五十肩になりやすいという傾向もあります。
五十肩は関節の周囲に炎症が起こる病気なのですが、その炎症が最も多く起こる場所が「腱板」というところです。腱板が傷んで炎症を起こすことで、関節を包み込んでいる「関節包」全体に炎症が進み損傷がおよんでしまいます。
どうして五十肩になるのか、その原因は実はまだはっきり分かっていません。ただ、これまでの経験から、腕を上げた状態で長時間作業をしたあとにおこりやすい病気だということはいえます。
五十肩の病状は、おおよそ3つの段階に分かれて進行していきます。
発症してからしばらくの間(数週間〜数カ月)は、もっとも強く炎症が起こっている時期で、肩を中心に、肩と腕全体が痛みます。また、服を脱ぐときなど、腕を大きく動かすと激しく痛みます。夜になると痛みが増してくるので、痛い方の腕を下にして寝るのが困難になります。
急性期をすぎると、安静にしている状態では痛みを感じなくなりますが、腕を直角に上げる(腕をまっすぐ前に向けた状態)と、激しい痛みが生じます。 また、急性期の炎症がもとで、筋肉が引きつれて収縮し、硬くなってしまうため、関節可動域が狭くなって腕が動かしにくくなることがあります。このころがいちばん「腕があがらない」と感じる時期で、腕を大きく回転させるなどの動作はまったくできなくなることもあります。こうした運動障害を「肩関節拘縮(こうしゅく)」といいます。
「肩関節拘縮」が改善し、徐々に腕が動かせるようになってきます。全快するまで、約半年程度、重症の場合は1年くらいかかることもあります。
急性期においては、炎症を抑えて痛みを軽減するために、消炎鎮痛剤が処方されます。痛みが激しい場合には、抗炎症剤を局所注射する場合もあります。痛みを抑えるとともに、安静を保つため、肩・腕を三角巾などで固定します。
痛みの激しい時期をすぎれば、今度は「肩関節拘縮」を予防・軽減・回復させるために、運動療法などのリハビリテーションを行います。安静と運動のバランスをとることが難しいため、医師、理学療法士の指示の元で行う方がよいでしょう。
急性期に適切な処置を行うことで、早く治癒に導くことが可能ですので、悪化する前に整形外科を受診していただければと思います。五十肩はほとんどの場合、きちんと完治します。少しのあいだの辛抱ですので、心配いりませんよ!
五十肩は放っておいても治るといわれました。確かに一過性の炎症は、時期が来れば自然に治まります。炎症が治まれば、痛みも和らぐでしょう。ただ、適切な治療や運動療法をしないと、肩の動きは元通りにはなりません。長い間放置しておくと、治ったあとで運動障害が残ることがあります。痛い時期にこそ、リハビリテーションをして動かさなければいけないのです。リハビリテーションについては、以下をご参照ください。
肩の関節は球状になっており、ほぼ360度動かすことができる、人体の関節の中で最も大きく動く関節です。また、細かい筋肉と肩甲骨で形成され、デリケートな構造をしています。肩の筋肉に炎症が起ったり、悪い姿勢(猫背など)が続くと、細かい筋肉と肩甲骨のバランスが崩れ、痛みを引き起こすことがあります。肩に痛みがあると、よく使う筋肉と使わない筋肉に分かれ、よく使う筋肉は疲労し、炎症を起こします。使わない筋肉は、萎縮し、細くなって弱くなります。このようにして、バランスの崩れた肩の関節では、スムーズに腕を上げることが難しくなり、代償として体全体を傾けたり、肩をすくめるような上げ方になります。では、そのまま生活していくとどうなるでしょうか?
その生活を続けることで、肩の構造が変化し、違うところを使い過ぎ、痛みが出たりします。そして、使わない肩の筋肉は、だんだん弱くなります。これでは、日常生活動作(更衣・洗髪・洗顔・排泄・髪型を整える・家事・仕事など)に大きな影響が出ます。
こんな悪いサイクルを断ち切るために、医師の指示のもと、適切な肩のリハビリを行い痛みを減らし、肩を柔らかく保ち、筋力アップして楽しい生活をしていきましょう。
痛みにより、肩周囲の筋肉は緊張しています。その筋肉をリラクゼーションするために、物理療法(ホットパック・低周波療法・マイクロ)を施行します。
理学療法士・柔道整復士が、硬くなっている肩周囲の筋肉をほぐすことで痛みを緩和し、伸びにくくなっている肩周囲の筋肉のストレッチをすることで、痛みのない範囲で肩の動く範囲を広げます。
また、使わないことで、弱くなっている肩の筋力トレーニングを行い、筋力レベルを向上していきます。
滑車、ゴムチューブ、バランスボール、肋木を使用した肩や全身の筋力トレーニングを理学療法士の指導のもとで行います。
1日も早く、痛みをなくしていただけるよう、自宅でできる自主トレーニング方法をアドバイスし、来院時に確認しながら進めていきます。
五十肩のセルフチェック
五十肩には「肩から腕が痛み、肩の動きが制限される」という特徴があるので、問診と触診が何よりも大事です。
問診では痛みが起きる部分、「何をしたときに、どのように痛むのか」など、腕の動きと痛みとの関連などについて詳しく聞きます。
また、肩の関節周囲を1つ1つさわったり、圧迫したりして、症状が五十肩とよく似たほかの病気ではないかを根気よく見分けていきます(鑑別診断)。患者さまを裸にさせない医師を良心的だと誤解するかもしれませんが、ちゃんと「服を脱いで、肩をみせてください」という医師のほうが信頼できるといえます。ご自身で四十肩・五十肩を疑って受診される方は、脱ぎやすい衣服でいらしていただけると大変助かります。