カルシウム不足と女性ホルモンの減少が大きく関係している骨粗鬆症。
病気の進行を抑え、骨折を防ぐためにも、早期の治療開始が大切です。
骨粗鬆症とは、加齢などにともなって骨のミネラル(カルシウム)含有量が減少し、鬆(す)が入ったように骨がスカスカになって骨折しやすくなる「病気」です。初期の段階では自覚症状がないため、多くの場合、骨折して病院にかかってはじめて見つかります。
高齢者が寝たきりになる原因の、約20%が骨粗鬆症による骨折であるという調査報告もあり、骨粗鬆症の患者さんは、予備軍も含めると日本国内だけで約1,000万人〜2,000万人いるといわれています。
骨は一度つくられてからは変化しないように思えますが、じつは他の組織の細胞と同じように、古くなった骨を壊して新しい骨を形成するという新陳代謝を繰り返しています。骨の新陳代謝を「リモデリング」と呼びます。
しかしこの新陳代謝のバランスが崩れると、骨をつくる働き「骨形成」が、骨を壊す働き「骨吸収」に追いつかなくなり、結果的にスカスカの骨になってしまうのです。これが骨粗鬆症です。
「骨形成」が衰えるのには、さまざまな要因がありますが、いちばんの原因は加齢によるもの。骨密度は20歳前後がピークと言われており、その後40代までは一定で推移するのですが、50代を迎えるころから急激に骨密度が低下していきます。これは、このくらいの年齢になると、カルシウムを吸収する腸の働きが弱まるからだと考えられています。
そのうえ、「和食」には乳製品が少ないなど、日本人はもともとカルシウム不足になりやすい食生活を送っていますので、よりカルシウム不足に陥りやすいと言えます。
また、骨粗鬆症は女性に多く見られる病気で、患者さんの80%は女性だといわれています。これには、閉経による女性ホルモンの減少が大きく関係しています。女性ホルモンの一種「エストロゲン」には、骨を壊す「骨吸収」を抑える役割があります。エストロゲンが減少すると骨吸収が活発になり、骨形成が追いつかなくなってしまうのです。
ほかにも、運動不足やアルコールの過剰摂取・喫煙など、さまざまな生活習慣と関連しています。
また、リウマチの治療などでステロイドを長期間使用し続けると骨粗鬆症の進行を早めてしまう場合もあります。ですので、リウマチなど他の疾患の治療においても、ステロイドの使用は骨粗鬆症への影響を充分考慮したうえで行われるべきでしょう。
骨粗鬆症は「静かな病気」と言われ、かなり進行しないと自覚症状は現れませんが、病気が進行すると、立ち上がるときなどに腰や背中に痛みを感じるようになります。やがて痛みが激しくなり、ほんのちょっとつまずき、重いものを持っただけで骨折してしまうようになります。
骨粗鬆症のもっとも重大な合併症は、この骨折です。先に述べたとおり、骨折が原因で寝たきりになってしまう方も多いので、できるかぎり骨折を起こさないよう日常生活のうえでも気をつける必要があります。
また骨粗鬆症では、背骨が最初に弱くなることが多く、骨がつぶれる「圧迫骨折」を起こしやすくなります。圧迫骨折を起こすと、腰が曲がり身長が縮んでしまいます。昔話に登場するおばあさんは、骨粗鬆症のため、腰が曲がっていたのです。若い頃に比べて腰が曲がった、身長が縮んだと人に指摘されてはいませんか?骨粗鬆症の可能性があります。
骨粗鬆症においても、やはり早期に治療を行うことがもっとも大切です。そのためにも、自覚症状がなくても定期的に整形外科で骨密度測定を行うなど、自身の骨の状態を把握するようにしましょう。適切な薬の服用など、早期に治療が開始できれば、かなりの確率で骨折を防ぐことができるようになってきています。
骨粗鬆症の治療では、骨吸収を抑えるための「女性ホルモン製剤(エストロゲン)」や「ビスフォスフォネート製剤」、骨形成を促進する「ビタミンK2製剤」、体内のカルシウムを増やす「活性型ビタミンD3」「カルシウム剤」などがあります。
とくに「ビスフォスフォネート製剤」は、現在の骨粗鬆症の薬のなかでも、とくに良好な効果が見られる薬で、骨吸収を強く抑えてくれるため、骨密度の高い良質の骨の形成が期待できます。
骨粗鬆症が原因で起こる圧迫骨折は、骨の一部に変形は残りますが、そのまま固まって自然治癒することも多いものです。しかし大きく変形し、神経を圧迫するなど異常が強い場合は、金属を骨に直接固定する手術を行うこともあります。
また、リン酸カルシウムを主成分とする、人体用に開発された「骨セメント」という特殊なセメント剤を注入する手術を行う場合もあります。骨セメントは骨折した部位をつなぐだけでなく、骨粗鬆症で弱くなった骨自体を補強する役割も果たしてくれます。また部分的な切開で手術を行えるため、体への負担が少ないというメリットもあります。ただし、骨セメントが骨以外の場所に漏れて固まってしまうという可能性も考えられるため、そうしたリスクも充分考慮して手術を行う必要があるでしょう。
骨粗鬆症の場合、骨密度をこれ以上低下させないような食事を心がけることがとても大切です。まずもっとも重要なのは「カルシウム」です。骨粗鬆症の方の、1日のカルシウム摂取目標量は「800mg以上」です。牛乳をはじめとする乳製品・小魚・豆腐などの大豆製品、海草類・チンゲン菜・小松菜など、カルシウムの多い食品を積極的に摂るようにしてください。目安としては、毎日牛乳1本分のカルシウムは摂りたいところです。カルシウムの摂り過ぎを気にされる方もいらっしゃいますが、よほど無茶な摂取の仕方をしない限り、弊害はありませんので、どんどん食べるようにしてください。
カルシウムを摂る際に重要なのは、カルシウムの吸収を助ける「ビタミンD」を同時に摂取することです。ビタミンDは、まぐろ・きくらげ・かつお・さんま・さば・あんこう・いわしなど、魚類に多く含まれています。
骨折を防ぐことが最重要ですので、転倒には充分注意しなくてはいけません。しかし骨折を恐れるあまりずっと安静にしていると、骨は余計に弱くなってしまいますので、医師と相談したうえで適度な運動を行った方がよいでしょう。運動を続けると、反射神経も衰えないため、逆に転びにくくなるという効果も期待できます。
現在スポーツをされている方は、できるだけ続けるようにしてください。運動が苦手な方は、毎日30分くらい散歩をする、エレベーターに乗らずに階段を使うようにするなど、日常生活のなかで意識的に体を動かすように心がけましょう。
このように骨粗鬆症は、家庭での生活習慣の改善が非常に大切です。しかし逆に考えれば、自分の力で病気の進行を遅らせることができるということでもあります。
ですから、ぜひとも前向きな気持ちで、生活習慣の見直しに取り組んでいただければと思います。当院では、みなさまがいつまでも元気でいていただけるよう、最大限お手伝いしたいと考えています。また、早期発見のためにも、今症状が無い方でも、ぜひ一度骨密度を測定しにご来院ください。
食事からカルシウムを摂取し、必要量を吸収することができるのは若いうちだけで、30代以降カルシウムの吸収率はどんどんと低下してしまいます。若いうちからカルシウムの摂取・運動を心がけ、骨貯金を心がけましょう!