整形外科のクリニックでは、毎日大勢の方が腰痛を訴えて来院されます。
とにかく辛い腰痛は、原因や症状もさまざまです。目に見えない痛みを解明します。
腰は、立つ・歩く・座る・ものを持ち上げるなど、人間の動作のすべてに関わっており、運動器の中心となる重要な部位です。常に力が加わっており、何もしなくても重い体を支え続けることで、腰の筋肉や骨、クッションの役割をしている椎間板などは、想像以上に負担がかかっています。ですから腰は、二足歩行の人間にとってもともと痛めやすい部分だといえるでしょう。とくに年齢を重ねて長年の疲労が蓄積してくると、より腰痛を起こしやすくなります。
腰痛は、さまざまな原因で起こります。代表的な症状を順に見ていきましょう。
もっとも多く起こりやすいのが「腰痛症」。腰痛症は、腰椎周辺の筋肉が弱ったため、日常的なちょっとした動作で筋肉を痛めて起こると考えられています。腰痛症は、骨などには異常がないため、症状は比較的軽いことが多いですが、なかにはかなり強い痛みをともなう場合もあります。また、良くなったり悪くなったりを繰り返します。
病院では、非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩薬の処方が行われます。また痛みが相当強い場合「トリンガーポイント注射」を行うこともあります。投薬とともに、腰の筋肉を強化する、「腰痛体操」などの運動療法も行われます。また日常動作や姿勢を改善するための指導も行い、再発防止に努めます。
椎間板が変形し、神経を圧迫することで痛みが発生します。腰の痛みだけでなく、脚がしびれるなどの神経症状が起こる場合もあります。重症の場合、動けないほどの激しい痛みが生じることもあります。
非ステロイド性消炎鎮痛薬や筋弛緩薬の処方の他に、コルセットなどで腰を固定し、安静をはかります。また、症状が重い場合は「神経ブロック」も行われます。
変形性腰椎症も、椎間板の老化・変形によって起こります。年をとると、椎間板が劣化して水分が少なくなり、弾力性が失われてきます。すると負荷に耐えきれなくなり、椎間板がつぶれてきてしまいます。弱体化した椎間板を補強しようとして、周囲に新しい骨をつくりだすのですが、残念なことにうまくは再生できず、「骨棘(こっきょく)」という尖ったトゲとなってしまいます。このような骨の構造の変化が痛みの原因になっていると考えられています。腰の痛みがおもな症状ですが、立ち上がろうとするときなど、動作の開始時にとくに強い痛みが発生します。
痛みが強い場合、投薬のほかに「神経ブロック」や「トリンガーポイント注射」を行う場合があります。またリハビリテーションとして、温熱療法やコルセットの装着なども行われます。背筋や腹筋を強くする運動や、ストレッチも効果があります。
腰椎を構成する骨のなかの、背中の部分にある「椎弓(ついきゅう)」の一部が骨折し、分離してしまった状態のこと。原因のほとんどは、子ども時代の激しいスポーツによる疲労骨折だと考えられています。若いころは無症状で何ともなかったものが、加齢によって腰椎や靭帯が弱り、発症すると考えられています。
腰痛がおもな症状で、体を後ろに反らせたり、長時間立ちっぱなしであったりすると痛みが強くなります。激しい痛みが起こることは比較的少なく、鈍い痛みであることが多いです。
消炎鎮痛薬の処方の他に、コルセットを使用したり温熱療法なども行われます。
背骨(脊椎)には「脊柱管」という管があり、このなかを神経が通っています。何らかの原因でこの脊柱管が狭くなってしまうと、神経を圧迫して痛みが生じます。これが「腰部脊柱管狭窄症」です。
先天的に狭い場合もありますが、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニア、脊椎すべり症などによって脊柱管が狭くなってしまった症例が多く見られます。
歩きはじめには症状がないのに、しばらく歩くと腰や脚が痛くなってきます。しかし、しばらく腰掛けて休むと、また歩けるようになります。この症状を「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」といい、もっとも特徴的な症状です。また腰をまっすぐにして立った状態では、脊柱管がより狭くなるため痛みが起こりますが、少し前かがみになるといくぶん脊柱管が広くなり、楽になります。
痛みを抑えるために、消炎鎮痛薬や血流改善薬などが処方されます。それでも痛みが激しいときは「神経ブロック」も行われます。
また、神経を圧迫しないように、少し前かがみで手押し車を押しながら歩くようにすると、かなり痛みを軽減できます。
骨粗鬆症は、骨のカルシウムが減って、スカスカのもろい骨になってしまう病気です。骨がもろいため、ちょっと腰に負担がかかった(くしゃみ、しりもちをつく)だけで圧迫骨折を起こしてしまうことがあり、こうなると強い痛みが発生します。また、気付かないうちに圧迫骨折をしていることも多いです。
骨粗鬆症があると、骨折を起こしていない状態でも疼痛を伴う事があります。
骨の密度を増やす薬を飲むことで、かなり改善されます。しかし、ひどい圧迫骨折を起こしてしまっている場合は「骨セメント」を注入するなどの手術が必要となることもあります。
腰に痛みがあると、同じ姿勢でいることや日常の基本動作(寝起き、立ち座り、歩く)で痛みが出現するため、応用動作(家事・仕事・車の運転・身のまわりのことなど)にも大きく支障をきたすことがあります。
腰痛のまま生活を続けることで、腰をかばって他の部分で代償しようとするため、足腰の筋肉が緊張して硬くなってしまいます。その状態が続くと、体の力が抜きにくくなり、慢性疲労を引き起こします。腰痛の患者さまは、腹筋が弱く、姿勢が崩れていたり、長時間同じ姿勢で仕事(デスクワーク・長時間の運転など)をしている方が多いです。
正しい姿勢で生活し、腰に負担のかかりにくい動作を覚えることが、腰痛予防につながります。 腰痛のない生活をしていくために、医師の指示のもと、適切な腰のリハビリをして痛みを減らし、足腰を柔らかく保ち、筋力アップ・体力アップをしていきましょう。
痛みにより、足腰の筋肉は緊張しています。その筋肉をリラクゼーションするために、物理療法(ホットパック・低周波療法・マイクロ波療法・腰椎牽引)を施行します。
理学療法士が、硬くなっている足腰の筋肉をほぐすことで痛みを緩和し、伸びにくくなっている足腰の筋肉のストレッチをすることで、痛みのない範囲で関節の動く範囲を広げます。ウォーターベッドを使用したマッサージは大変人気があります。
また、使わないことで、弱くなっている足腰・腹筋などの筋力トレーニングを行い、筋力レベルを向上していきます。
自転車エルゴメーター、重錘バンド(重りの付いたバンド)、ゴムチューブ、バランスボール、肋木を使用した腰・全身のストレッチ・筋力トレーニングを、理学療法士の指導のもとで行います。
1日も早く痛みをなくして頂けるよう、自宅でできる自主トレーニング方法・腰に負担のかからない動作方法をアドバイスし、来院時に確認しながら進めていきます。
「腰が痛いのは年のせいだから仕方がない」。そう思ってあきらめている方は多いと思います。骨や筋肉を若いころと同じ状態に戻すことはできないかもしれませんが、適切な薬の処方や、注射、リハビリテーションなどで、症状はかなり改善できます。とくに神経ブロックは非常に高い効果をあげることがよくあります。私自身、学童期の激しい運動によって腰椎分離症になりました。成人してからもときどきひどい腰痛に悩まされてきました。現在は全身の筋力を鍛え、また毎日ストレッチ等を行うことによって随分症状が改善してきました。痛む原因を完全に取り除くことはむずかしいですが、痛みと向き合い折り合いをつけることは誰でもできると考えております。どうぞ腰をいたわって、元気にすごしてくださいね!
痛みを我慢しても、何もメリットがありません。痛みに悩む患者さまが一刻も早く痛みから解放され快適な日常生活が送れるよう、私たちは努力しております。
標どんな病気であれ、治療においていちばん大切なのは、病気の根本原因を治すことであるのはいうまでもありません。
しかし、整形外科で取り扱う疾患には、強い痛みをともなうものがたくさんあります。患者さまにとっては痛みがいちばん辛いところで、大変な忍耐を強いられます。当院では、できるだけ早く苦痛をやわらげられるよう適切な薬の処方はもちろん「神経ブロック」や「トリガーポイント注射」などにより、積極的に痛みを除去しています。
また、痛みの治療は「反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)」という合併症を予防するためにも非常に重要です。「RSD」は、極度の痛みが引き金となり、交感神経に異常をきたして起こると言われています。多分に比喩的表現を含みますが、「痛みのショックや恐怖感が交感神経を活性化させ、痛みの信号が増幅してさらなる炎症反応を招き、その炎症の痛みがまた他の反応を誘発し…」と、激しい痛みが堂々巡りで繰り返される非常に辛い病態です。
一般的にはあまり知られていないRSDですが、これを予防するためにも、できるだけ早く痛みを抑えられるよう、充分配慮していきたいと考えています。
神経に対して直接作用させる神経ブロックと違い、筋肉に対して行うのが「トリガーポイント注射」です。
ひどい肩こりのときを思い起こしてください。肩や首などの筋肉に、とくに痛い、硬い「しこり」のような部分があることがありますよね? そこが「トリガーポイント」です。トリガーポイント注射は、とくに痛みが強い部分に局所麻酔薬を注射するもの。
トリガーポイント注射は、筋・筋膜性の痛みに対して行いますが、神経ブロックや星状神経節ブロックのときと同じく、患部周辺の交感神経の働きを抑え、痛みの信号を軽減し「痛みの悪循環」を断ち切ってくれます。前述の肩こりや腰痛症、変形性脊椎症、また現代人に多い神経性の痛みなど、幅広い疾患において適用が可能で、大きな効果をあげています。
(1)注射した局所麻酔薬により痛みをブロックし脳への痛みの信号を遮断する。
(2)痛みによっておこる局所の交感神経の興奮を抑えて、局所血流低下を改善する。
(3)たまっている痛み増強物質(ブラディキニンなど)を改善された血流で
洗い流し痛みをとる。
トリガーポイントに正確に針先があたれば、筋膜にあたった時点でズーンとした痛みを患者さまは感じたり、そこの筋肉がピクッと痙攣したりします。また、東洋医学の針治療の方法と同じで、トリガーポイントに注射針を刺入するだけで、一種の針治療効果(経穴効果)も得られるとする説があります。いっけん筋肉注射のようですが、ただの筋肉注射とは別物で、効果にも格段の差があることが患者さま自身はっきりとわかると思います。
神経ブロックとは、痛みの原因となっている末梢神経や交感神経に、局所麻酔薬を注射するものです。麻酔薬を注射することで、一時的に痛みを感じさせないようにするのですが、麻酔の効果自体は数時間で消えてしまいます。では、単なる一時しのぎでしかないのかというと、そうではありません。強い痛みに伴って「痛みが痛みを発生させる」という悪循環が起こっているために、痛みが慢性化してしまうことがよくあるのです。
■傷みの悪循環
(1)痛みが起こる。
(2)筋肉が緊張して神経が圧迫される。
血管も圧迫され、酸素が行き渡らなくなる。
(3)痛みを感じさせる発痛物質がつくられる。
(4)発痛物質が交感神経を刺激する。
↓↓↓↓↓↓↓
(1)さらに痛みが増す・・・・・。
この悪循環を断ち切ることを目的に「神経ブロック」を行います。神経ブロックによって、痛みを消すことにより、筋肉の緊張が緩和し、神経や血管への圧迫がなくなります。すると発痛物質も減少して、交感神経の働きが沈静化し、慢性的に続いていた痛みも治まるというわけです。
何度か継続して、定期的に神経ブロックを行うこともありますし、なかには、たった1回の神経ブロックで痛みが完全に消える方もいらっしゃいます。人によって効果の出方が違いますが、いずれにしろ、痛みの治療において非常に有効な手段のひとつであることは間違いありません。
神経ブロックの注射は、その注射をするときが痛いといわれます。特に激しい腰痛などの痛みをもっている患者さまは痛みなどの刺激に大変過敏になっているため、通常よりも痛いと訴えることがよくあります。しかし当院では、場合によっては、局所麻酔注射をしてから神経ブロックを行うなどの方法もとっています。
神経をブロック(遮断)してしまうことに、心理的な抵抗を持つ方も大勢いらっしゃることでしょう。しかし、ブロックは一時的に行うだけの手技です。低濃度の毒性のない少量の局所麻酔薬を使用するため、通常はしびれや動けなくなるなどの副作用はありません。たとえ起こったとしても、一時間ほど安静にしていただければ完全にとれてしまいます。
近頃、薬物療法の副作用や限界、また痛みを除去するための手術などには限界があると言われてきており、トリガーポイント注射や神経ブロックが注目されてきています。いずれも使用する局所麻酔薬はすぐに体内で分解されてしまいますからなんら制約無く行うことができます。また、多くの神経ブロック療法はブロックしたのち数分後には痛みや麻痺がとれるという特徴があり、高価な薬を長く飲まないでよいなど薬剤費を節約でき結果的には治療費をおさえられるというメリットもあります。もちろん、健康保険が適応されています。
痛みをとるために、もちろんいきなり「注射」という治療法を選択するわけではありません。薬物療法(とくに漢方薬の併用)、理学療法、物理療法、東洋医学療法(鍼灸)等も併用して行い、患者さまの意思を最優先して治療を行います。注射については、効果や安全性を疑いながら受けてもおそらく効果の程は上がりません。きちんと患者さまに説明し、納得いただいた上で安心して臨んでいただくことが、もっとも治療効果が高くなると感じておりますし、その説明責任を果たすことがとても重要であると考えております。やみくもに注射を怖がるのではなく、医師の説明をよく聞いていただければ幸いと存じます。